《第一章》

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《第一章》

空を見上げていつも思う。 雲は何でああも甘そうな形をして空を流れてゆくのだろうか?ふわふわで、口に入れた瞬間にすぅーっと溶けていってしまいそうだ。 あの雲なんてどうだ。まるでモンブランのようではないか。美味しそうだ。想像すると口の中に唾がわいてきた。それを飲み込んで、口端をあげてうっすら笑みを浮かべる。 甘味はいい。 美味しいもの。 飴玉にチョコレート、クッキーにカップケーキにレーズンの入ったマフィン。ショートケーキ、ブラウニー、ガトーショコラ、モンブラン、シフォンケーキ、ロールケーキもはずせない。名前を挙げ始めたらきりがない。兎に角、甘い物ならどんなものでも大歓迎だ。 世界に溢れる甘味の全てを食べ尽くしたい。そう思うほどの甘党だ。 そう、 薬学の授業中なのに甘味のことで頭がいっぱいになるくらいにね。 頭にチョークがクリーンヒットしたことにより、やっと、今が授業中だったことに気づいた。 階段状に机の並んだ教室の一番前に視線を移してみれば、黒板を背に怒った担当教授の姿が目に入った。 三十前半くらいの男。 長身で手足が長く、ほっそりとした体のラインがくっきり見える少し丈の長めの深緑のローブを身にまとっている。長い亜麻色の髪を項の位置で一つに束ねていた。瞳の色は灰赤。 ルシオラ・サラン魔薬学教授。 紫色の湯気を立ち上らせている真鍮製の鍋の向こう側で、彼は鉄仮面のような無表情でこちらを睨んでいる。
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