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   3 放課後になるとすぐ、沙緒子と私は教室を飛び出した。 正門を出ると、目の前に相変わらずどっしりと横たわる丁牟瀬川の堤防土手を今日は登らずに、学校の前の通りを左へ。 敷地のフェンス沿いに左折しておもてのバス通りへ突き当たると、もうそこが下りの──駅から西へと遠ざかる、神原高校方面のバス停だ。 バスは程なくやってきた。 ほぼ貸し切りのように空いている席の前の方にふたり陣取ると、私はトートバッグからミステリー文芸部の作品集を取り出した。 この事件が解決するまで、准奈から借り受けたのだ。 真新しくて、カラーコピー用紙とは言え手の切れそうな表紙をめくり、改めて目次を見る。 そこには五つの、題名のようなものが並んでいた。  時差な殺人  鉈(なた)送つた  南白津市  梅雨鳴る筒   他へ短縮王小唄聞く 「──その目次の興味深い点はふたつ」 沙緒子が言う。 「ひとつは、それぞれの作品の題名が非常にユニークであること。  例えば、ひとつめの『時差な殺人』は、正しい日本語で言うなら『時差のある殺人』よね。まあ、インパクトを狙ったのかもしれないけど。  二作品めは『送られた鉈』としたほうが題名らしくてしっくり来る。『送つた』の『つ』の字が大きくなってしまっているのは単純なタイプミスかしら。
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