其ノ二 俘の噺

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 そんな思いなど口にできるはずもなく、結果として十日間の禁固刑が言い渡された。警察署の地下にある牢屋に入れられると、敷物として固い毛布をぶっきらぼうに投げ渡された。  牢屋は個々別々になっていていくつもの部屋があるが、もうほとんど満員に近い状態だった。彼らは一体何の罪を犯したのだろうか。  人のことなど気にしても仕方が無い。毛布を床に敷いて、これからのことを思った。おそらく今回の件で石切場は解雇だろう。罰金はいくらほどするのか。これといって貯えもないから払えるかどうか……。次の仕事を探そうにも、不況の時代に働き口などあるのだろうか。ましてや、これでおれは前科者だ。  いくら考えても気が滅入るばかりだ。何も考えずに黙々と天井の染みでも数えることにした。すると、隣の牢屋の男が格子越しに声をかけてきた。 「よう兄ちゃん。あんたは何をやらかしたんだい?」 「投石罪だそうだ」 「やっぱりな。おれはこの中でもかなりの古参だから色んな奴を見てきたが、新しい法規制が導入された日はだいたい誰かがやっちまうんだよな」  どうやら牢屋にいても趨勢新聞だけはしっかりと読まされるらしい。しかし、それだけ長くいるということは、この獰猛な野獣のような様相をした男は一体何をしでかしたのだろう。
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