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いずれにせよ隣人が殺人犯だとしたら知りたくもない事実なので、こちらから聞く用は無さそうだ。
「兄ちゃん名前は?」
「タカオだ。あんたは?」
「おれの名はラマダだ。ま、短い間だろうけどよろしくなタカオ」
それからしばらく、ラマダと二人で互いの罪状には触れることなく何気ない世間話をして過ごした。このような場所に長くいても趨勢新聞を読んでいるというだけでそれなりの会話ができてしまうのだから驚きだ。
※
翌朝、看守の号令で目を覚ました。とても眠れるような状況ではないと思っていたが、案外そうでもなかったようだ。しかし床が固く敷物が薄いせいで、あまりよく眠れたという気がしない。
「よう起きたかい? これから収容者の点呼を取るんだ。朝飯はそれからだからもう少し我慢しな」
おれより先に起きていたラマダが言った。確かに腹は減っていたが何分食欲が無い。
端から順に看守が番号を呼ぶと、その度にそれぞれの番号に対応した収容者が適当に返事をしてゆく。
「看守が呼んでいる番号は何だ?」
「檻の番号さ。あんたの檻は十二番だから十二と呼ばれたら返事をすればいい」
点呼を終えると、格子の隙間から朝食と趨勢新聞が差し込まれた。この日の朝食は麦飯と二尾の小さな川魚の煮干しだった。
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