其ノ二 俘の噺

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 趨勢新聞を開くと、一部不自然に切り抜かれている部分がある。 「ラマダ、この部分はどうして切り抜かれているんだ?」 「そこはきっとあんたの記事だ。ここに収容されてる人間に関する記事は全て切り抜かれるんだ」  なるほど――と、妙に納得がいった。意図はどうであれ、毎日目を通している新聞に自分が犯罪者としてどのように書かれているかなど知りたくはないものだ。そして皮肉にも、この日の帝の御言葉は「法は民のためにあります。法を守ることで良き民であらんことを」だ。  もっとも、帝と言ってもこの国の帝は子供女帝陛下とも呼ばれる幼子だ。事実上の政治は全て各大臣が全権を握っている。  いざ食事を目にしても食欲は一向に沸かなかったが、出された物は食ってしまわねば勿体ないと、ラマダの勧めもあって無理に掻き込んだ。  食事を済ませてしまえばとうとうすることも無くなった。趨勢新聞の記事に関する話題をラマダにでも振ってみようともしたが、どうやら彼は別の収容者との世間話に夢中のようだ。  ふと天井を見ると、やはり染みは大いにある。これを数えていれば時間など簡単に過ぎてくれよう。  その日の晩飯は麦飯と汁物だった。一緒に差し込まれた趨勢新聞の夕刊には、もう切り抜きは無かった。
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