其ノ一 偖の噺

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 おれは空華(くうげ)の都の外れにある石切場へ向かった。ここで石材を切り出すのがおれの仕事だ。石切場には既に多くの同僚が集まっており、早くも今朝の趨勢新聞の話題で持ちきりだった。 「おうタカオ、おまえも見ただろ?」  石切の準備を始めていたおれは、咄嗟に投げかけられた質問に手を止めた。周囲の会話に耳を傾けていなかったため返答に困ったが、どうせ見たと言うからには趨勢新聞の話だろう。 「ああ、投石罪はさすがにやりすぎだと思うな。人命を尊ぶ気持ちは分かるが、あれでは多少の不注意すら許されないじゃないか」 「馬鹿、滅多なことは言うな。風説流布罪でしょっぴかれたいのか」  風説流布罪とは聞こえがいいが、要は趨勢企業や帝にとって不都合な民の思想は全て虚偽として始末するための方便だ。  しかしこれでは石切の最中に欠片を飛ばしただけでも投石罪ではないか――と言ってやりたかったが、渋々とシャツの襟を正して鳥打帽をかぶり直した。 「それよりも、もっと気を付けないといけないことがあるだろ」  そうは言われても今朝の趨勢新聞から他に思い当たる節など見当たらない。 「おめえ、ひょっとしてちゃんと隅まで読んでねえな? 出たんだよ。奴らが」
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