38人が本棚に入れています
本棚に追加
/150ページ
「奴ら……イ (にんべん)か。列車でも襲われたのか?」
「いや、隣町の荷馬車がやられたそうだ。奴ら姿形が人間に似ているだけのケダモノの分際で人間様の物を盗もうなんざいい度胸してやがる」
イ とは、野山に住む人に似た姿のケダモノだ。趨勢企業は、文明開化によって住む場所を失った動物達の怨霊が人に化けて悪さをする妖の類だと言う。その証拠に、必ず動物の毛皮を着た姿で人前に現れるらしい。
おれも遠目にではあるが何度か姿を見たことがある。あれは毛皮を着ていなければ本当に人と見まごうほどだった。
「最近やけに被害が多いみたいだから、おれ達も気を付けなきゃならんぞ」
「さすがの犬畜生でもこんな石コロは欲しがらないだろ」
「はは、それは違ぇねえが犬畜生の考えることなんて分かったもんじゃない。用心するに越したことはないさ」
それから少しの間、他愛のない会話を続けた。作業に取りかかると、みな口々に指示やかけ声を上げながら石材を切り出した。
烏の鳴き声にふと空を見上げると、遠くの空が茜色に染まっている。
「そろそろ上がりにするぞ! 都に戻る頃には日が暮れちまう!」
親方が大きな声で言うと、早々に現場の後片付けを済ませて、切り出した石材の積まれた滑車を牛に引かせて小屋へ片付けた。
最初のコメントを投稿しよう!