其ノ一 偖の噺

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 石のつぶては見事に命中し、雌のイ が短い悲鳴を上げてひるんだ。額に赤みが差す。ケダモノと言えど血の色は同じか。  雌のイ はこちらを睨んだまま、額から鼻筋を伝って流れ落ちた一筋の鮮血を舐め取った。こちらの出方をうかがっているようだ。  おれはもう一度見舞ってやろうと、また小石を拾い上げた。 「そこ! 何をやっている!」  突然の男の声が辺りに響き、雌のイ がびくりと反応した。声の主はたまたま通りかかった警官隊の男だった。軍刀を帯びた警官隊の男がこちらへ駆け寄るが早いか、雌のイ は脱兎の如き速さで逃げ去っていった。難は逃れた。 「おお、警官隊の方! 今しがた雌のイ に危うく襲われそうになっていたところです!」 「そうか。それは無事で何よりだ。それより貴様、その石コロをどうするつもりだった?」
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