其ノ二 俘の噺

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 結局、行商人の親子が必死に弁明してくれるも虚しく、おれは警察署へと連行された。頑丈な縄で両手を縛られ、そのまま簀巻きにされた状態で地べたに座らされている。これではまるで大罪人ではないか。 「で、どうしてイ に向かって石を投げたのかと聞いているんだ」 「行商人の親子を救うためです」 「そうではない! 何故その行商人に石が当たるかもしれないという可能性を考慮せずに石を投げたのかと聞いているのだ! さては貴様、投石罪も知らんのか!」  そう言って警官隊の男は軍刀の鞘で床を強く打った。この様子では無明罪も追加されかねない。 「それは知っています。今朝、趨勢新聞で読みました。では、あの状況でどうしていれば正解だったのですか?」 「おとなしく退散していれば済んだことだろう」 「しかし、それではあの行商人は全財産を失ってしまいます。現に彼らは命に代えてでも財産を手放そうとはしなかったでしょう」 「では何故貴様一人で逃げようとしなかった?」  逃げる? 目の前で危機に瀕している人を見捨ててか? この国の法律は一体どうなっているのだ。  少し前の趨勢新聞では、居酒屋で暴漢に襲われた際に正当防衛を公使した者が過剰防衛罪で逮捕されたという記事を目にした。この国の法律は何を守ってると言うのか。これでは民ではなく、ただ体裁を守っているだけではないか。
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