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「え? 帰ってくるんですか!?」
驚く彼女の声に「うん」と頷いて微笑む。
「いつですか? あ、あたし、お迎えにっ!」
「いいよ、だってまた迷子になるでしょう?」
「そんないつも迷子になんてなりません!」
画面の向こう、少しだけ頬を膨らませる彼女を可愛いと思う。
「でも平日だから予備校じゃないかな?」
「あ」
そんな表情も、あっと言う間に落胆色に染められる。
「で、でも! 夕方には終わるし!!」
「うん、それまで待ってるよ」
その声に「はい!」と答えてくれる彼女はどこまでも愛おしいと思う。のに、
「あ、コータの推薦決まったんですよ! それも手塚先輩と同じ大学で」
「琢磨とも一緒だね」
「そうなんです! だから今でも部活に出てたりして――」
「もしかして、君も出てるの?」
「え? あ、えと……、時間があるときだけで……」
どうしてこんな簡単にボタンを掛け違えてしまうんだろう?
「受験生なのに、大丈夫?」
「だから、本当にちょっとだけだし、時間の開いてるときだけっていうか」
「別に責めてるわけじゃないよ」
「……はい」
途端に重くなる空気にため息を付きたくなる。
結局、帰る便を彼女に教えることなく切れてしまった通話。
「帰りたくないな……」
思わずそう呟いて、軽く頭を振った。
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