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 ――平日の昼間とはいえ、団地はそれなりに人の気配に満ちていた。  掃除機をかける音、布団を叩く音、テレビから漏れる笑い声、微かではあるが、そういう雑多な音がそこにある生活を物語っていた。  壁一枚、床一枚を隔てて、10部屋×四階分、計40の生活が一つの箱に詰め込まれている。更にその箱が八棟、ぎゅうぎゅうと寄せ集まってこの団地を形成している。  ここにある320の生活の内、いったい幾つが密接に関わりあっているのだろう?  そのほとんどが互いに知らぬまま進んでいるのではなかろうか。その内一つの生活が不意に無くなってしまっても、外の319の生活は何ひとつ変わる事無く保たれるのだ。
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