切なる願い

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……まるで哀れんでるようなその目。 チクリと胸の奥底が痛んだ。 「決めたのか?」 木綿先輩の言葉にコクリと頷いた。 だって、もう此処にはいられない…… そんなことは分かっているはずなのに、動かないの。 鉛のように重くて、この足が動かないの。 ……私自身が別れを決めたはずなのに、足が彼との別れを拒んでいるように思えた。 「理香、さぁ立つんだ! もう帰ろう。今後のことをゆっくり2人で話そう……」 「今後のこと?」 「そうだ。俺達2人のことだよ」 木綿先輩に腕を引かれて、身体を起こされる。 動かないと思っていた足は、金縛りが解けたかのようにすんなりと動いた。 ―――… それからすぐに木綿先輩の車に乗せられて着いた先は…… “香織の家” と思いきや、木綿先輩のアパートだった。 私が車から降りると、そのまま木綿先輩は近くの駐車場へと車を走らせる。 そしてすぐに戻ってきた木綿先輩が、アパートの階段を上り始めた。 この時、もちろん私達2人の間には会話なんてなかった。 私はただ無言で、木綿先輩の後をついていったのだ。 「入れよ」 と玄関の前で鍵を差し込んで、ドアを開ける木綿先輩。 あまり大きなボリュームではないのに、この心の奥がドクッと震えた気がした。
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