153人が本棚に入れています
本棚に追加
……まるで哀れんでるようなその目。
チクリと胸の奥底が痛んだ。
「決めたのか?」
木綿先輩の言葉にコクリと頷いた。
だって、もう此処にはいられない……
そんなことは分かっているはずなのに、動かないの。
鉛のように重くて、この足が動かないの。
……私自身が別れを決めたはずなのに、足が彼との別れを拒んでいるように思えた。
「理香、さぁ立つんだ! もう帰ろう。今後のことをゆっくり2人で話そう……」
「今後のこと?」
「そうだ。俺達2人のことだよ」
木綿先輩に腕を引かれて、身体を起こされる。
動かないと思っていた足は、金縛りが解けたかのようにすんなりと動いた。
―――…
それからすぐに木綿先輩の車に乗せられて着いた先は……
“香織の家” と思いきや、木綿先輩のアパートだった。
私が車から降りると、そのまま木綿先輩は近くの駐車場へと車を走らせる。
そしてすぐに戻ってきた木綿先輩が、アパートの階段を上り始めた。
この時、もちろん私達2人の間には会話なんてなかった。
私はただ無言で、木綿先輩の後をついていったのだ。
「入れよ」
と玄関の前で鍵を差し込んで、ドアを開ける木綿先輩。
あまり大きなボリュームではないのに、この心の奥がドクッと震えた気がした。
最初のコメントを投稿しよう!