一章・復讐屋コミュニティ

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鍵を閉めて、あちこち錆びた階段を降りる。 アパートの周囲には目立つ建物がない。 唯一あるのは少子化で寂れた公園と、有名とは程遠い小さなコンビニだけ。 買い物は駅まで行かないと出来ないが、頻度が低いからあまり不便ではない。 復讐屋コミュニティは多くが目立たない場所に存在している。 その方がリスクが低い。 中には個人で仕事を受けている変わり者もいるようだが、それは格闘技とか護身術に長けた人だけだ。 一階の事務所の前に建つと、お馴染みになった言い合いが聞こえてきた。 一つ小さく息を吐いて、ドアを開けた。 広くはないワンルームに無理やり詰め込まれたデスク。 机上には中古のパソコン、乱雑に積まれた書類。 惨状は口論している二人のデスクだけだ。 自分のデスクは片付いている。 几帳面ではないが、汚いのは嫌いだ。 席に着くと、口論は中断された。 「おはよう、黎ちゃん。相変わらず細いわね~。若いんだからちゃんと食べなきゃダメよ!今度ウチに御飯食べに来ない?」 先に話し掛けてきたのは、中年だとは思うのだが妙齢の女性、森 幸江。 バブルの残り香を纏う派手な外見。 流石にミニではないが、今日は赤いスカートに肩パッド付きの同色のジャケット、ド派手な化粧、カールした茶髪。 ここに来た時から親切にしてくれるが、極力関わりたくない。 「おはようございます、森さん。これでもちゃんと食べてるので大丈夫です」 愛想笑いを向けると、森さんが何か言う前にもう一人が先に口を挟んだ。 「やめとけ。こいつぁ、料理にヤク盛るぜ。兄ちゃんみてぇな色男が大好物だからなぁ!」 がはは、と下品に笑う彼はやはり中年の渋井 虎之助。 パンチパーマ、黒いサングラス、黒いスーツ。 元はやくざの下っぱだったようだから、納得の外見だ。 人はそう簡単には変われない。 「おはようございます、渋井さん。流石に失礼ですよ。それは」 やはり愛想笑いで受けると、二人は再び口論を始めた。 言い争いを無視しながら考える。 復讐屋になる条件に学力、性格に問題ない者みたいな事が書いてあったが、ここは例外だ。 (なんでこんな場所を選んだんだ、あいつは) 住居手配の感謝はしてるが、別問題だ。 心中で大河原を呪うが、自分も変わり者だと自負している。 黎はまたため息を吐くと、パソコンを立ち上げた。
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