序章

2/6
前へ
/9ページ
次へ
日本は外国より平和だ。 誰かがそんな事を言っていた。事実、外国に比べると、日本は平和なのだろう。銃を持つ人は少ないし、街中で乱闘騒ぎもほとんどない。 だからと言って犯罪が減るわけもなく、むしろ微妙に増え続けている。 強盗、殺人、誘拐、掏り、脅迫などから、虐待、痴漢、詐欺、それらが結びついた妙な犯罪まで、種類は様々だ。 ここ数年でその仕事量の割に負担が多く、給料が安い為、希望者が減り続けている警察官。 増える犯罪者を裁く時間に追われる裁判官や陪審員。 彼らの負担を減らすために新たな機関が設けられる事、そして裁判所解散が今国会で可決された。 『合法復讐屋』 単語だけではどういう役職か曖昧だが、どうやら裁判所に代わり犯罪者を裁く役割を担うらしい。 職を無くした裁判官達が指導役となり、候補者を一人前の合法復讐屋に教育するのだ。 しかし裁判官が全員指導役になるわけではない。 多額の退職金と共に引退する裁判官もいる。 陪審員も必要なくなった。 一見マイナス面はないように感じるが、これでは犯罪者は減らない。 そこで合法復讐屋という役職の候補者に行き当たる。 国会が定義した新たな役職の候補者の定義は以下である。 『合法復讐屋候補者は下記の者に限られる。 一・犯罪者と判断されながらも正義感を持つ者。 二・身勝手な事情で犯罪を犯さなかった者。 三・学力、性格、常識に問題がない者。 候補者は合法復讐屋教育所にて指導役と二人一組になり、試験に受かるまで実技、模擬試験に励む事。給与は一般公務員と基本同額、能力により上乗せする。 また場合によっては、犯罪者をその場で裁く権利を与える。 合法復讐屋は常にバッジと拳銃一丁の所持を認める。 』 要は犯罪者に犯罪者を裁く権利を与えるというのだ。 確かに犯罪者は減るだろうが、とんでもない案が通ったものだ。 件の復讐屋教育所、休憩所にて。 配られた要綱を眺め、空いた手で煙草を吹かしながら、指導役となった大河原慶雄は煙混じりのため息を吐いた。 「一応受かったはいいが、今まで裁いてた奴らに教育ってありえねー・・・」 まだ四十代半ば、独身。 無職よりはましだがどうしたもんか。 が、悩んでいる暇はない。 慶雄は煙草を押し潰し、重い腰を上げた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加