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『合法復讐屋教育所横浜支所』
それが配属された場所だった。
合法復讐屋云々の案が可決されてからの動きは早かった。
施行されてから半年で裁判所は解散、一年で教育所が建ち始め、その間に指導役教育が為された。
そして二年経った今、各県に教育所が完全設置され、復讐屋は増え、犯罪者は減りつつある。
警察は犯罪者を取り調べ、復讐屋にリストを渡し、復讐屋が罪人と認めた凶悪犯だけを捕まえ、牢にぶち込む役割と死刑に処するかどうか判断する権利しか持たなくなった。
当初、戸惑っていた国民もすっかり慣れて、この制度に賛成する者が圧倒的だ。
なぜなら犯罪者だった復讐屋が給料を貰う事で消費が増し、税収も増え、消費税増額が見送りになったからだ。
とはいえ、日本の借金は巨額だから年金減額やら煙草や酒、ギャンブル税など娯楽税を増額しようなんて案もあるらしい。
賭け事なんぞに興味はないが、ただでさえ高い煙草が更に高くなるのは大反対だ。
話が逸れたが、もちろん賛成する者ばかりではない。
犯罪者なんかに犯罪者を裁かせるなんてどうしたらそんな事になるんだ!という意見もあるが、覆る筈もない。
実際プラス面が多く、制度が浸透した街中は以前より活気に満ちているように感じる。
『この教育所もそのおかげで出来たようなもんだしな』
心中でぼやき、慶雄は分煙化された休憩所を一瞥した。
家族三人くらいならギリギリ住めるくらい広い。
冷暖房完備、自販機はそれぞれの部屋に二台ずつ、テーブルもイスもクリーム色で統一され、どう違うのかブランドに明るくないから分からないが、それなりに有名な家具デザイナーの作品らしい。
禁煙室にはカウンター席があり、どちらにも出入口がある。
休憩所より立派なのは建物自体だ。
横浜という土地柄のせいか外観はまるで美術館か博物館のようで、七階建ての各フロアは吹き抜けを挟んだ左右で役割を分けていた。
右側は復讐屋教育関連施設、左側には犯罪者故に行き場所がない者達の仮住まいが設けられている。
完璧で、お洒落な職場に不満はないが、職の内容には若干蟠りを覚えてしまう。
『・・・いや、今更だ。自分で選んだ以上やるしかない』
慶雄は漸く休憩所を後にして、今日から教育する犯罪者もとい、復讐屋候補者の待つ部屋に向かった。
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