一章・復讐屋コミュニティ

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仕掛けた目覚まし時計を叩いて、機械的な音を放つアラームを止めた。 うっすら目を開けると、まだ見慣れない部屋の景色が飛び込んでくる。 必要最低限の家具しかない、質素なワンルーム。 白で統一されているから不快な感じはないが、彩りはない。 窓に目を向けると、唯一色の着いた水色のカーテンの隙間から光が漏れていた。 軽く目を擦り、上半身を起こす。 頭がくらくらする。 物心ついた時からずっと低血圧なのだから仕方ない。 でも今朝はいつもより酷い。 なんでだろう。 ・・・そうだ、夢を見たからだ。 自分を復讐屋にしてくれた男、大河原との出会いの夢。 『してくれた』なんて言い方は半分は間違いか。 確かに色々教えてくれはしたが、復讐屋の試験に受かるか否かは自分の実力次第だ。 夢の中だが、姿を見るのはほんの二ヶ月前に合格を言い渡された時以来だ。 話したくなかった過去を明かしてから、あの大河原という男は急に張り切って指導し始めた。 解せなかったが、好都合だった。 何としても復讐屋になろうと決意していたから。 それから自分でも驚くほどに課題、試験に合格していき、たった半年で復讐屋として認められた。 なぜか大河原の方が自慢気に鼻息を荒くしていたが、半年という短い期間で復讐屋になるのは異例だということだから、仕方ないのだろう。 教育者によくある事だ。 自分の教え方が優秀だから合格したんだ、という自惚れ。 まあ、大河原は例外だったかもしれないが。 軽く頭を上げると、漸くふらつきが無くなってきたので、支度を始める事にする。 冷蔵庫から水を出してコップに注ぎ、菓子パンを持ってテーブルにつく。 朝はあまり食欲が湧かない。 もそもそと食べ始め、冷たい水で眠気を覚ましていく。 改めて部屋を見渡す。 この部屋は以前住んでいた住人の家具が残されていた。 その住人もかつては復讐屋だったと聞く。 小さいアパートの二階。 隣と一階の一室にも復讐屋が住んでいて、残る一部屋は事務所だ。 復讐屋は危険な仕事だから、合格後は少人数で固まって暮らすのが決まりのようになっている。 大河原に手配されたアパートも同様だ。 いわゆるコミュニティのようなものだろう。 菓子パンの袋を捨て、手早く着替えて部屋を出た。 夢は忘れたいが、復讐屋になった目的は忘れはしない。 こうして鏑木黎の一日は始まっていく。
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