第一章

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用意された夕食は……なんというか個性的な味だった。 自然のうまみを楽しむ、と言えばいいのか……とにかく味がしない。 別の膳に調味料らしきものが乗っていて、自分で味付けして食べるようだった。 おじいさんもおばあさんも美味しそうに食べているし、何より私が食べるのを嬉しそうに見ている。 まずいなんて口が裂けても言えない。 残そうものなら具合が悪いのかと心配されてしまう。 調味料を少しずつ使いながら、なんとかすべて食べきった。 調味料って……偉大だ。 夕食も無事終わり、さっき着替えたのにまた寝間着に着せかえられた。 八重さんが几帳を並べて寝る場所を作ってくれている。 まあ外も真っ暗、部屋の中は私のすぐそばに置かれた灯りだけ。 それも油の中に紐を垂らし、小さな火をつけただけの危なっかしいものだ。 八重さんは「お休みなさいませ」と言って下がってしまったし……早く寝るしかないのかもしれない。 「寝たら……もとの世界に帰れるかな……」 呟いてみるけれど、どうも帰れる気がしない。 向こうの世界では、今何時だろう。 お母さんたち、心配してるだろうなあ。 ふと懐かしい顔が浮かんできて、視界が滲んできた。
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