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どうしてだろう。
鞄の中には、竹取物語の台本。
深いため息がこぼれた。
「この子? はじめまして、部長の七尾瑞樹(ななおみずき)です」
美央が開けた扉の中で待っていたのは、長い髪をおさげにした、赤い眼鏡が印象的な2年生だった。顔は見たことある。
「は、はじめまして」
反射的に挨拶してしまう。
「やーん、イメージにぴったり!」
七尾さんは嬉しそうに言いながら近づいてくる。その後ろからさらに数人の女子が興味深そうに出てきた。
女子たちに囲まれてちやほやとされているうちに、断りづらくなってしまった。
まんまと、美央の策略にはめられたわけだ。
まったく可愛い顔をしてやってくれる。
けれど断れなかった私も悪い。
こうなったらやるしかないのかもしれない。
「葵ならやってくれると思ってたよー」
晴々と笑う美央が憎らしくないわけじゃないけれど、演劇なんてそうそうやれることでもないし、みんないい人そうだし……やってみれば案外楽しいかもしれない。
「もーーーー美央の馬鹿」
えへへと悪びれもなく笑う美央は、照れくさそうに言葉を続けた。
「だって一緒にやりたかったもん」
……だから怒れない。わかってた。美央はそういう子だ。
「もーーー」
言葉では怒って見せるけれど、自分の顔に笑みが浮かんでいることに私は気付いていた。
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