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「まったく、苦労なさったことだ」
おじいさんは涙目になって頷いている。
ええと確か、かぐや姫が求めた仏の石の鉢は、光を宿しているはず。
けれど目の前にある鉢は全く光っていないし、ただの鉢にしか見えない。
どうやら、台本通りのようだ。
ほうっと息を吐く。
「八重さん。ええと代筆をお願いします」
八重さんは頷いて、習字道具が入った箱を持ってきた。硯箱(すずりばこ)と言うらしい。
準備を整え小さい机に向かって、「どうぞ」と声をかけてくれる。
大丈夫。この台詞は美央に何度も教えてもらって覚えたんだもの。
心を落ち着けて、口を開いた。
「おく露の光をだにも宿さましを小倉山にて何もとめけむ」
――もしこの鉢が本物なら、野にある朝露くらいの光を宿しているはずです。近くの小倉山でいったい何を探して来たのでしょうか。
八重さんはさらさらと書き終えて筆を置く。
丁寧に畳んで、私に渡してくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言って、それを鉢の中に入れる。
そのまま一歩下がって、おじいさんに軽く頭を下げた。
「これを、石作の皇子様にお返しくださいませ」
おじいさんは困惑した表情のまま、鉢を持って出て行った。
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