第二章

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「まったく、苦労なさったことだ」 おじいさんは涙目になって頷いている。 ええと確か、かぐや姫が求めた仏の石の鉢は、光を宿しているはず。 けれど目の前にある鉢は全く光っていないし、ただの鉢にしか見えない。 どうやら、台本通りのようだ。 ほうっと息を吐く。 「八重さん。ええと代筆をお願いします」 八重さんは頷いて、習字道具が入った箱を持ってきた。硯箱(すずりばこ)と言うらしい。 準備を整え小さい机に向かって、「どうぞ」と声をかけてくれる。 大丈夫。この台詞は美央に何度も教えてもらって覚えたんだもの。 心を落ち着けて、口を開いた。 「おく露の光をだにも宿さましを小倉山にて何もとめけむ」 ――もしこの鉢が本物なら、野にある朝露くらいの光を宿しているはずです。近くの小倉山でいったい何を探して来たのでしょうか。 八重さんはさらさらと書き終えて筆を置く。 丁寧に畳んで、私に渡してくれた。 「ありがとうございます」 お礼を言って、それを鉢の中に入れる。 そのまま一歩下がって、おじいさんに軽く頭を下げた。 「これを、石作の皇子様にお返しくださいませ」 おじいさんは困惑した表情のまま、鉢を持って出て行った。
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