第三章

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「庫持の皇子様は、千日間にわたって私たち身分の低い技官と一緒に隠れ家で生活し、立派な玉の枝を造り上げたなら官位を与えようともおっしゃいました。しかし未だ報酬がありません。人づてに、お姫様の要求している事だとお聞きしましたので、このお屋敷から報酬を頂きたいと思いまして参上いたしました。……まあ、何てことでしょう!」 八重さんが顔をゆがめる。 よかった!! これも偽物だわ!! 「おじいさん」 私は笑みを浮かべておじいさんを呼んだ。 おじいさんはすぐに駆け寄ってきてくれる。 「てっきり本物の玉の枝かと思ってしまいました。けれどこうして偽物とわかった以上、お返しする他ありません」 「そうだな」 おじいさんも苦い顔をしながらも頷いて、玉の枝を受け取ってくれた。 ああよかった! 心から安心すると、覚えている台詞が口に出た。 「まことかと聞きて見つれば言の葉を飾れる玉の枝にぞありける」 ――本物の玉の枝だと信じていましたが、言葉で飾り立てただけの偽物だったのですね。 八重さんが慌てて硯箱を手に取ったが、先ほど聞いた庫持の皇子の声で咳払いが聞こえた。どうやら聞こえたようだ。
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