プロローグ

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竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。 あやしがりて寄りて見るに、筒の中光りたり―― 竹取物語は中学一年の時に授業で習った。冒頭を覚えさせられてテストがあったっけ。 嫌なことを思い出したと顔が歪む。 「なあに唇への字にしてるの」 パコンと頭をはたかれた。後ろを向くと、美央があきれ顔で立っている。手には丸めた台本。 「古文苦手って知ってるくせに」 思わず愚痴がこぼれる。 演劇部で竹取物語を上演するにあたり、物語を知っている必要があると美央に勧められて、図書館で古文の勉強会となってしまった。 「かぐや姫の物語でしょ? 子供のことに読んだし、内容は知ってるよー」 「そりゃ知ってるでしょうけど。でも詳しく知ってて損はないでしょ」 損はないって……目の前に広げられた本文の竹取物語に視線を落とす。 めまいに似た錯覚に陥った。 「そう難しく考えないで、ほら」 美央は絵が描かれた文献を広げて見せた。かぐや姫の絵巻物が紹介されている。 教科書でよく見る平安朝の顔に、綺麗な色遣いの十二単。綺麗だな、と素直に感想が浮かぶ。 「このかぐや姫になれるんだよ? わくわくしない?」 美央はまるで自分のことのように嬉しそうに微笑んだ。
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