第三章

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「限りなき思ひに焼けぬ皮衣袂乾きて今日こそは着め」 ――あなたへの限りない愛情でさえも燃やせない火鼠の皮衣。これを手に入れて恋の涙に濡れていた袂もようやく乾きました。今日こそは、気持ちよく濡れていない衣服を着られます。 八重さんが読み上げてくれた手紙の内容を聞きながら、箱の中にある衣を手に取った。 今日訪れたのは右大臣の阿部御主人。 持ってきたものは、火鼠の羽衣。 羽衣ってこんなにきれいだったんだ……。 見た目は紺青色。毛の先端は、金色に光り輝いているようにも見える。 「綺麗な羽衣……」 「本当に。さあ、大臣をここに呼びましょう。世の中で見たこともない皮衣、これは本物だという風に思えます。大臣にあまり悲しい思いをさせないようにしなさい」 「え、ちょっ……おじいさん!」 おじいさんは大臣を呼びに部屋を出て行ってしまった。 私の隣には、おばあさんが腰を下ろしている。 その表情は何とも嬉しそうだ。 今度こそ……と喜んでいるのが空気で伝わってくる。
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