第三章

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「八重さん、お見舞いの手紙を書くのはどう思いますか?」 尋ねると八重さんは優しげに微笑みながら頷いた。 「そうですね。それがいいと思います」 「年を経て波立ち寄らぬ住の江のまつかひなしと聞くはまことか、と書いてください」 ――長い間、こちらに立ち寄って下さっていないですね。波も立ち寄らない住吉の松ではないですが、待つ貝(松・甲斐)もないという話を人づてに聞いています。それは本当なのでしょうか。 確かこんな台詞があったはず。 意味も、松と待つ、貝と甲斐がかけられていて、面白いと思ったから覚えている。 間違ってはいないはずだ。 本当はもっとちゃんと、自分の言葉でお見舞いを贈ることができればとも思うけれど、自分で歌を詠むなんてできないし、この時代の文体で手紙をかけるとも思えない。 だって私、古文苦手だし。 思ってからため息が漏れた。 もっと勉強しとけばよかった。
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