第三章

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中納言からはすぐに返事が来た。 「かひはかくありけるものをわび果てて死ぬる命をすくひやはせぬ」 八重さんが読み上げる。 この意味は覚えていた。 あまりに悲しい歌だと思ったから。 ――貝は見つかりませんでしたが、姫からお見舞いの歌を頂き、甲斐はありました。しかし、そのようなお気持ちがあるのに、どうして落胆と恥ずかしさで死にそうな私の命を、姫は匙で掬うように救って下さらないのですか。 胸が締め付けられるような気持ちだ。 「中納言様……この歌を詠んですぐにお亡くなりになったそうです」 八重さんが教えてくれる。 けれど物語の流れで知っていた。 物語の中で、この話が一番嫌い。 どうしても、中納言が可哀想に思えてしまって。 かぐや姫に求婚しなければ、こんなことにはならなかったのに。 かぐや姫だってもちろん、中納言を可哀想と思ったらしいけど……。 かぐや姫の代わりとは言え、自分の要求で人が死んだと聞いては気分が悪い。 人殺しにでもなった気分だった。 そう思って、愕然とする。 これは、人殺しだ……。
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