第三章

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ぽたりと、何かが畳の上に転がった。 後から後から、あふれてくる。 もうやだ。 両手で顔を覆って、涙を受け止めた。 もうやだ。 帰りたい。 こんなところ、来たくなかった。 私は、物語の中のかぐや姫でよかった。 私自身がかぐや姫になんてならなくてもよかったのに! 偽物だから、本物じゃないから…… 自分をそうやってごまかしてきた。 けれど。 実際に難題を出し、彼らを不幸にしたのは私だ。 私は確かに本物のかぐや姫じゃないけれど、私の姿を実際に見ていない彼らにとってはもはや本物のかぐや姫でしかない。 この世界に来て一体どれくらいの時間が経ったのか分からない。 その間、不安がなかったと言えば嘘になるけれど、どこかで楽観視していたのも事実だ。 所詮ここは、物語の世界なのだから、と。 そうではないのだ。 私にとっては物語でも、この世界の人は確かに生きていて、死にもする。 それが分かって初めて、私は不安に押しつぶされそうな気持ちになり、声を押し殺しながらもしゃっくりを上げて泣きじゃくった。
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