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「なんて困ったことを言いますか。帝の使者ですよ? 粗末に扱うことなど出来るはずもない」
おばあさんの声はおろおろとうろたえているように聞こえた。
本気で困っている。
でも、私にはどうしてあげることもできない。
「私は会えません!」
突き放すような物言いになってしまった。
おばあさんはしばらく私の後ろをうろうろとしていたが、やがて静かに部屋を出て行った。
こらえていた涙があふれ出す。
帝に会えるのを、楽しみにしていた。
でもそれは、ここが竹取物語の世界だと思っていた時の話。
私がかぐや姫なら、帝に会うわけにいかない。
だってどうせ……いつかはいなくなってしまうんだから。
帝に一目ぼれするなんて、そんなわけないと思ってはいるけどさ。
「かぐや姫や」
そろそろとした足音に気づいてはいた。
おばあさんが申し訳なさそうに声をかけてくる。
「使者の方も、必ず会ってくるようにと帝からご命令を受けているのだから会うまでは帰れないと……。国王のご命令なのだから、この国に住む人間はこの命令をしっかり聞くようにと……」
「では、私はご命令に背きましょう。さあ、殺してください」
もうどうにでもなれ! と思ってそう言う。
おばあさんは深くため息をついて、そろりそろりと部屋を出て行った。
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