彼女のホンネ

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視ないようにしていたモノを視てしまった。 公園の自販機の横で、静かに涙を流しながら空を見上げる女を。 そして、気づいてしまった。 タイムリミットが近いことを。 「そうですか。すべて気づいていて、私に声をかけたんですね」 女は涙を流しながら、微かに笑った。 「今日、私の49日です。事故でした。初めての彼とドライブしていて。不運にも交差点で車が左から突っ込んできて。気づいたとき、私は自分のお葬式を眺めていました」 俺は何も答えない。相槌さえ打たない。 「春に大学生になったばかりで。いろんな未来に思いを馳せて。楽しい人生のはずだったのに。やりたい事、たくさんあったのに…!」 視線を向ければ、女はすでに透き通り始めていた。 「クリスマス、素敵な彼と過ごしたかったけどそれはもう叶わなくて。でも…貴方が気付いてくれたから…何も言わずに、ってわけじゃなかったけど、でも…ありがとう…気づいてくれて」 目を合わせると女はもう泣いてはいなかった。 「…なんでだろうな。俺は関わらずに生きていきたいと思ってた。霊感なんていらないって。ただ“普通”でいたかったんだ。けどなぁ…放っておいたらダメな気がしたんだよ…」 俺の言葉に女は照れたように笑う。
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