第1話

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ティレニア海に面した古い泉から湧き出た軟水が 中庭のラグーンへゆっくりと注ぎ込んでいる。 ラグーンの淵には深い樹木が折重なるように生い茂って、 真夏の楽園に涼風を運んでいる。   白い砂浜がラグーンの奥まで続いていて、 椰子の木のプロムナードが広がっていた。 リゾートホテルの建物は古い宮殿を改装した石造りで、 ロマネスク様式の廻廊が清楚な佇まい見せて、 手前の鮮やかに照り映える芝生の緑の上には 5つほどオリーブ色のパラソルが並べられ、 眩い太陽の光を受け止めていた。 廻廊から連なる透明なラグーンの水面の中に 大理石のステップが三段ほど透けていて、 舞香は素足をその一つの石段にかける。 くるぶしまで水に浸ると、軟らかい冷たさが心地良かった。 舞香は腰に巻いたパレオを脱ぎ去り、二、三段降りて、肩まで浸たり、 白亜の水着で身体を水面へ浮かせると、髪を濡らして空を仰ぐ。 蒼い空からは眩い太陽が水面に反射して、少し離れたところにいる トップレスで水に浸るブロンドの髪の女性の乳房から首筋へと照り返す。 イタリア人のポーターが石段の上へ近寄って来た。 脱ぎ捨てたパラオの近くに白いバスタオル置き、 小さなメッセージカードを置く。 お連れ様からです。と、ポーターは、流暢な日本語で告げた。 水面から舞香はゆっくりと上がり、白いバスタオルを手に取り、 身体を拭く。   メッセージカードに軽く目を通し、サンダルを履くと パラソルの下のデッキチェアーへと歩いて行った。 掛けてあった深紅のペイズリー柄をあしらったジョーゼットの ワンピースをガウン代わり羽織る。 舞香は中庭に広がる美しい扇状のアーチをくぐって 中央に位置する客室棟の入り口まで歩いて行き、 さっきのポーターがウエイトレスと立ち話をしていたので、 舞香は軽く礼を言い、ぶどう棚の下のテラスの脇の 開け放たれているホテルのドアをくぐった。  
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