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レイコは、はーい、と、甘い子猫の鳴き声のように言い、箸を延ばす。
舞香が無言でビールを飲むと、ケイスケと目が合った。
ケイスケが微笑む。
「夏はスタミナをつけなきゃね」
そう言いながら肉をひっくり返す。
ケイスケは折柄の入ったワイシャツのボタンを一つはずし、
鎖骨が覗く。
以前は、それほどがっしりとした体格ではなかったが
肩幅が広くなり、胸板も厚くなっている。
「最近、専属のトレーナーをつけてジムでトレーニングしているんだ」
と、ケイスケが言う。
そっけなく、そうなんだ、と、頷きながら舞香が返事をする。
「前は……、その……、あれが弱かったけど……」
ケイスケは酔いが回ってきたのか、顔を真っ赤にしながら言う。
「何が……弱かったの?」
レイコがケイスケと舞香に訊く。
さぁ?と、舞香が言うと、照れたようにケイスケがにたにたと笑う。
「エッチね、彼は、弱かったのよ……」
舞香がきっぱり言うと、ケイスケは急に怒ったように、
別に、弱かったわけじゃないさ、あのときは
疲れていただけだよ、と、言う。
「まぁ、まぁ」と、仲裁に入るようにレイコが二人を促すと、
ケイスケは鉄板の上の肉をひっくり返し、
焼けた肉に箸を延ばし、その肉を舞香の皿に置く。
舞香は、小声でありがと、と、言った。
ケイスケが頷く。
窓を見ると高層ビルからの赤や青や緑のネオンサインと
赤色に点滅する航空安全灯とが混ざり合い、熱帯夜にうごめいていた。
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