第3話

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モン・サン・ミッシェルの寺院の頂上の廻廊には 夏の穏やかな風が流れていた。 海面を一望できる眺めと、荒涼としたひでりの続く 大地の向こうに灰色の空に映えるように緑の草原が 広がっていて、羊飼いが戯れる羊の群れを逐っている。    舞香が一度は行きたいと直也にせがんで、 イタリア旅行の途中でモン・サン・ミッシェルの寺院へ訪れた。  2週間ほど前に直也からチケットを渡されていたので、 舞香は独り成田空港で直也より先に搭乗手続きを済ませ、 空港の搭乗ゲートで直也を待っていた。 直也が30分遅れて搭乗ゲートへ着き、舞香と合流する。  搭乗ゲートの飛行機へと続くエプロンのディスプレイには パリ行きの表示がされている。  案の定、あけみは子供を連れて空港まで直也を見送り、 出発時刻のギリギリまで直也を空港ロビーで引き止め、 子供達もいたので家族でレストランで食事していたが、 出国手続きが混んできたので、直也はあけみからようやく 解放され搭乗ゲートに着たと言う。 直也の手には小型のバッグとパスポート。 それに週刊誌を2冊とイカの珍味1袋を抱えていた。 「なに、それ?」 舞香が言う。 「ん? あ、これ? 珍味だよ、好きなんだよね、 旅行って気分になる。機内じゃ売ってないし、 あったとしても頼むの恥ずかしいから……」  そう言いながら袋を開け、酢漬のイカをかじる。 「恥ずかしいんだったら、買わなきゃいいのに……」 「そういう選択肢もあるが……、うまいものはうまい、 週刊誌あるけど読むか?」 「うーん、いい……、ちょっと、女性誌買ってくるから……」 そう、言って、舞香は立ち上がり、売店でファッション誌を買った。
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