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どれだけみがかれた靴を履いてても、どれだけ宝石で埋め尽くされた時計をしていても、こんな男に抱かれるくらいならきっと私は死ぬんだろうなとくだらない事を考えつつ、私はまだ接客を続けた。
「えー、そんなエッチなこといわないでよぉ、ヨル苦手ぇ」
「いいからおっぱい揉ませろ、ってかお前いくら出せば俺に抱かれんだ?三万か?五万か?」
そう言っておっさんは私の太ももを触りながらスカートの中に手を突っ込んできた。駄目だ、このクソ親父。そう考えながらふと店長を見ると黙って首を横にふっていた。「もういい、その客は駄目だ」の合図。店長が首を横にふらざるを得ないほどの客は、たいがいがこのへん界隈のお店で出禁にされていたりする。いわゆる、要らない客。不気味に執拗に動くおっさんの手を見ながら、どこで怒鳴り上げるかタイミングを見計らっているとスーツを着た色白の眼鏡の青年がこっちへ向かってきた。
「奥様からお電話がございました。本日はお帰りになられたほうが懸命かと」
なんだこいつ、このおっさんの秘書か何かか。
どうせこのおっさんはわがままを言い面倒なことをするかと思ったが、その男の言葉をきいてぶつぶつと文句を言いながら席を立ち、「今度やらせろよな」と私の胸をわしづかみにしてからお会計に向かった。
「ヨル、大丈夫か」
「触られたところを消毒したい」
「すまんな、ヨルならどうにかできたと思ったが、性根の腐った男だったか」
「いいよ、仕方が無い。それよりあのスーツの男、誰」
「さぁな」
色んな音が交じる。女の声、男の声、グラスの音、布がこすれる音。匂いも交じる。香水の匂い、革靴特有の匂い、料理の匂い、お酒の匂い。いろんな身体の器官がはたらく中、私はさっきのスーツの男が気になって仕方が無かった。
*
寝むれない夜を迎えて、また同じような日がきた。
開店前に女の子たちと談笑していると店長が「お前に謝りたいという客がきてる、昨日のだ」と言い私を呼び出した。まさかあのおっさんが?奥さんにでも怒られたのだろうか、でも見たくもないなあんな気持ち悪いおっさん。溜め息をついてしぶしぶ向かうとそこにはあのスーツ姿の男がいた。
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