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10畳の真ん中に置かれたベッド。両脇には必要最低限なものだけがつまれたこの無意味な部屋に、こんな綺麗な男がくるとは思いもしなかった。
「意外と片付いたお部屋なんですね。ちなみに、あの段ボールは」
「どうせ汚い部屋だと思ってたんでしょうね。あれは今までここに住み着いてた色んな男の私物。邪魔だけど勝手にひとのもの捨てられないじゃない」
「で、色んな男とまぐわったこのベッドに寝ろというんですか」
「人聞きが悪い。勘違いしているようだけど私はこのベッドでセックスは一度もしたことがない。別にセックス目的で連れ込むわけじゃないし、あなたのその貧弱そうな身体ち抱かれたいとも思わない。ただ、ひとりで寝るのが嫌いなだけなの」
「そうですか」
もっと反論があるかと思ったがどうやらこの男はすんなりと受け入れたようだ。さっきの動揺は嘘だったかのように、しわひとつないスーツ姿でキッチンに行き、電気ケトルでお湯を沸かしている間に紅茶の葉っぱを用意していた。
「…勝手にキッチンあさらないでよ」
「住む、ということはもう僕の家でもあるんですから、文句は言わないでください。この状況で文句を言うべきはどちらかというと僕のほうでしょう」
「…はい」
店で会ったときの、あの謙虚さはどこへ。
キッチンで揺れる黒い髪の毛を見ながら、はやく触りたいと呟いた。我に返ったときには、男は「気持ち悪いですね」とほくそ笑みながら私に言い放った。確かに自分でも気持ち悪いと思う。しばらくしてアップルティーのいい匂いが部屋中にひろがった。
「どうぞ、熱いのでお気をつけて」
「ありがとう。その、とりあえず、なんだけどさ。自己紹介でもしない?」
「あぁ、そうですね。僕は壬生(みぶ)です」
そのあとに下の名前を続けるのかと思い、少し待っていたが壬生は黙って紅茶を飲むばかりだった。
「私は、柿本(かきもと)です。………柿本ヨネです」
「…よね?ヨネさん?そんなに日本人離れした顔立ちとスタイルをしていてまぁそんな古風なお名前だとは」
「おばあちゃんみたいだとか馬鹿にされるのももう飽きた」
「別にそこまで避難することはないでしょう。僕は綺麗なお名前だと思いますよ。どんな漢字をかかれるのですか?」
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