1:あ し び き の

1/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

1:あ し び き の

あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝ん * ─お前ってもっと軽いと思ってたのに、全然やらせてくんないし、面倒だな。  今朝、私の家に入り浸っていた男が出て行くときに言った言葉。水商売をしてる女はやらせてくれるとでも思ってたのだろうか。セックスがしたいんじゃない。ただ夜が寂しいだけ。ひとりで寝るのが嫌いなだけ。 「ヨル、お前肌荒れひどいぞ。また男が消えたのか」 「うん。だから寝れない。そろそろ店長でもいいかなと思えてきた」  身長が高くて、熊みたいなスキンヘッドの店長は「俺を抱き枕にしてもいいが、ダブルベッドじゃないと駄目だな」と言いながらお店のシャッターを開けた。繁華街のど真ん中、ここのガールズバーは今日もいつもと何も変わりなくオープンした。しいて言うなら女の子が少し足りないくらい。  色んな店を転々とした。キャバクラ、ラウンジ、クラブ。どこで働いても贅沢できるレベルまで稼げるのはスペイン人とのクォーターの血のおかげだと思う。男、いや、客からするとエキゾチックの顔と長い足がたまらないらしい。エキゾチックの意味がよくわからないけれど。  顔立ちとスタイルのおかげで、小さい頃はお人形のようだといわれ、学生時代は自慢じゃないがモテなかった事がない。これで勉強ができれば「才色兼備」と言葉を欲しいがままにしていただろうが、手にした言葉は「馬鹿」だった。なんとか高校を卒業したが就職ができることもなく、こうして水商売の世界に飛び込んだ。 「ヨルちゃん、3番テーブルいって。結構うざい新規の客だから新人の子じゃ無理だわ」  黒服が耳元で苛々しながら言う。笑顔をつくって「はじめましてぇ、ヨルですぅ」と無邪気に挨拶してみたが、言葉は返ってこず、私の身体を舐め回すように見た。なるほど、こういう面倒か。女は男以下だと思ってるタイプかもしれない。  大嫌いなタイプだ。 「なんだお前、日本人じゃないのか」 「ヨルねぇスペイン人とのクォーターなんですよぉ。生粋の日本人のほうがお好きですかぁ?」 「別に穴がありゃあなんでもいいぞ!ってことはお前のアソコはスペイン人並ってことか!」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!