22人が本棚に入れています
本棚に追加
バタバタと駆け込んで面接に来ては、妙な仕事を任されてしまった。
買い物だって…? そんなのも分からんのか、この妖怪は。
「じゃ、夕方には帰るから買い出しよろしくねっ」
ぱたぱた手を振り、玄関に消える所長。
しばらくして、クルマを出す音が耳に届く。
…なんだか急に不安になってきた。
コイツの記憶、本当に消えたのか…?
本当に全てを忘れちまったのか…?
「おい」
急に呼ばれ、オレの心臓がビクンと跳ね上がった。
ソファに座っている彼女は虚ろな目をして、俯き加減に喋っている。
「な、なんだよ」
「お前…アタシの事、知ってんのか…?」
「え…」
しまった。墓穴掘っちまったか……
オレが騒がなかったら、コイツとは関わる事も無かったのだろう。なんとなく天罰を喰らったような気分だ。
「昔のアタシ…どんな奴だった…?」
「そりゃー…」
ふと考える。
本当の事を言うべきか。
『お前は影を操り、沢山の人間を死へ追いやった』と─
ただ、それを言ってどうなる。
死んだ奴が…
ミユが戻ってくるのか…?
もし、コイツが今から正しい道を…
人間との共存の道を望んでいるのなら、本当の事を言うべきではない。
最初のコメントを投稿しよう!