プロポーズは1秒でも早く

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その響きを聞く前に、間の抜けた電子音が部屋中をこだました。 まさかの……オレの携帯だった。しかも、この着信設定は例の妹である。 ……なぜ今? 早く切ってくれ! 願い虚しく、執拗にそのメロディーは鳴り響いた。 怒りに打ち震えながら、携帯を取り出し、電話に出る。 「何!!」 『あ、兄ちゃん? 指輪、奈央さんに受け取ってもらえた?』 ……このやろぉ。 今、まさに、お前が邪魔してんだよ! 『父さんと母さんが、結果を聞けってうるさいんだよ……。私、受験生なのに』 ……だったら、大人しく勉強してろよ。……頼むよ。 「切るぞ!」 『あ!待って! ジャケットのポケット見て!』 「はあ?」 ……鬱陶しい事この上ないが、とにかくポケットをまさぐる。 中から、白い紙袋が出てきた。赤字で神社の名が書かれてある。 「コレ何?」 『プロポーズが上手く行くお守り! 兄ちゃん頑張れ!』 ……応援してくれるなら、せめて邪魔をするなよ。 『あ、母さんが電話代われって、待ってね……』 母親が出てくる前に通話を切った。そのまま電源もオフにする。 視線を戻すと、彼女が笑いを必死にこらえていた。……聞こえていたようだ。 「……ごめん。雰囲気ブチ壊しで」 「……ううん。こっちこそ笑っちゃった。仲良しなんやね。驚いた」 「いや、まあ。……恥ずかしいけど、そんなカンジ」 ……お祭り騒ぎが大好きな両親と妹。 こんな家族だから、ギリギリまで隠しておきたかったのだ。 「……合格したよって、メールしてあげたら?」 「合格?」 「そこ、菅原道真で有名なトコでしょ?」 紙袋を指されて、慌てて中を取り出した。 彼女の言ったとおり、合格祈願のお守りが出てきた。 ……あのバカ。 普通、縁結びだろ!! 合格祈願て何だよ……って、え? 今、合格って言った? 奈央、それって! 「修ちゃんの荷物……東京に送ってもええ?」 彼女が、集めたオレの私物を指差す。 ……え? オレ、合格じゃないの? ちょちょちょ、ちょっと待ってよ!!  「私の荷物と……一緒に……」
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