プロポーズは1秒でも早く

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「弁天! お前、空を飛べるじゃろ!! 飛べ!!」 「えぇぇ……メンドクサイからヤダ」 美人はこんな非常時でも、そっけないものである。 そうこうしているうちに、船がスピードを上げて急降下を始めた。 もう、恥も外聞もない。美しい羽衣を風になびかせている女の前に土下座する。 「お願いです! オレ、これからプロポーズするんです!! 死んでる場合じゃないんです!!」 懇願しようと、顔を上げてびっくりする。 すぐ目の前に、女の笑顔があったからだ。 「いいこと教えてアゲルわ」 息がかかるその距離に狼狽する。 「……男なら、初志貫徹よ」 意味がわからないまま意識が飛んだ。 弁天様に唇を奪われたからだ。……そのやわらかさに身体が溶けていきそうになる。 目を閉じて、なされるままにすべてを預けた。 離れていく唇に名残り惜しさを感じ、そっと目を開けると…… 「な……お? ……え?」 弁天様が、オレの彼女に変わっていた。 「うなされてたけど……大丈夫?」  え? ……あ、夢か。 時計を見ると、2時間程眠ったようだった。 それにしても、縁起がいいのか、悪いのか……変な初夢にうなされるなんて。 内容をたどって、ふと思い出す。 「奈央、今オレにキスしてた?」 「え? ……うーん、どうかな? 知らないよ」 頬を赤く染めた彼女が、イタズラな笑みではぐらかす。 ああーもうだめだ! 可愛いんだよ! その笑顔! 「コイツぅ!!」 奈央をベッドに押し倒し、その唇をむさぼった。 そのまま、情事になだれ込もうとして…………殴られる。 「もう!! 修ちゃんのヘンタイ!!」 ……いや、彼氏にその台詞、傷つくから。  オレの腕から逃れた彼女が、寝室から出て行く。 慌ててその後を追った。 「ごめん、ごめん。 奈央があんまり可愛いからさ、ツイ……」 ソファに座ってソッポを向く彼女の背中を抱きしめる。 暖かくて、すごくやわらかい。 「ご機嫌直して。……ね?」 耳元でささやくと、くすぐったそうに首をすくめて身をよじる。 このまま仲直りして……と思ったけれど甘かった。 振り返った彼女の眉間に、深いシワが寄っていたからだ。 あ、マズイ……。 「もう! 疲れてるって、嘘なん?」 ……ん? あ、なるほど、そうでした。 オレ、疲れていました。
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