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ジャケットを羽織り、彼女のコートを手に取った。
「奈央、飯、食べに行こう。 お腹、減っただろ?」
実は、夜景の見える素敵なレストランを予約してあった。
そこでプロポーズすると決めていたのだ。
ジャケットの内ポケットに、指輪もスタンバイしてある。
一生に一度のプロポーズだ。
記憶に残るような演出で、絶対OKをもらうぞ。
自分に気合いを入れ、笑顔で彼女の腕を取る。
なのに、スルリと腕を払われた。
「……え、奈央?」
「ウチ、ええわ……。 修ちゃん、疲れてるやろ? 今日はもう、帰って休んだ方がええんちゃう?」
……ヤバイ。 やっぱり、相当怒ってる。
当たり前だよな。ああ、どうしよう。
「ま、マジでごめん。 埋め合わせするから……な、行こうよ」
ここで挫ける訳にいかない。
もう一度、彼女の腕をとってお願いする。
しかし、何度お願いしても、首を縦に振ってくれなかった。
くぅぅぅ、どうしたものか。
あぁ、日を改めた方がいいのかな……。
すぐに弱気が頭をもたげてくる。
……いや、ダメだ。ここまで散々延期になってきたんだ。
今日こそ絶対プロポーズするって決めたはず。
それに「思い立ったが吉日」って、誰かが教えてくれたじゃないか。
オレは腹を括った。
予定を少し変更して、ここでプロポーズする事にする。
そのあと、夜景をバックに婚約記念の食事会という事にしよう。
方向が定まったので、改めて彼女と正面で向き合った。
……噛んだら終わりだぞ。
緊張して強張った口をほぐすため、大きく息を吸い込んで……吐く。
……よし、言うぞ!
「奈央!」
「……別れよっか」
オレが結婚のケの字にたどり着く前に、コンマ5秒早く彼女がつぶやいた。
……え? え、 えええ???
「年の初めでキリがいいし……」
は? そんなキリの良さはいらないぞ! つーか
「じょ、冗談だよな? なんだよ、元旦から縁起が悪いな……ハハハ」
相手は関西人だ。ジョークのエッジは普段から鋭い。
尋常じゃないほどビビってしまったが、そこはいつもの冗談として、軽く笑顔でウケ流した。
……はずなのに、当の本人が笑っていない……って、え?
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