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タチバナは、同じ社の営業部員で大阪支社のエースだ。
社内でイケメンと持て囃されているくせに、狙っていた奈央をオレに横取りされたと、うるさく騒ぐイヤなヤツなのだ。
奈央だって、アイツにウンザリしてたはずなのに。……どうして!?
「……オレより、橘を選ぶって事?」
思わず嫉妬めいた台詞を言ってしまう。
「な、何言ってんの? 福岡で新しいプロジェクトがあるから、手伝って欲しいって言われただけじゃん! ……こ、これって、出世のちゃ、チャンスでしょ?」
出世って……わかるけど。
ものすごく動揺してるのは、どうして?
しかも、奈央は嘘つくとき標準語になるよね……。
今、バリバリ標準語だったぞ。
……やっぱり、おかしい。
「出世したいなんて、一度も言った事ないじゃん。 今更どうしたの?」
「な、きゅ、急にやる気になったのよ!」
そんな訳がない。
普段から彼女は『今の会社は腰掛けだ』と明言していた。
その通り、仕事に熱心な姿なんてこれまで一度だって見た事がない。
そんな彼女が、いまさら出世に目覚めるなんてムリがあり過ぎる。
そこまで思考が辿り着いた時、新たな疑惑が浮かんできた。
あの、年末の仕事って言うのも、嘘だったんじゃ……。
「もしかして、仕事が忙しいから会えないっていうの……橘とデートだったんじゃないのか? アイツと浮気してたんだろ」
急に残業が続くから、おかしいとは思っていた。
だけどまさか、浮気されてるなんて思いもよらなかったのだ。
一度疑念を抱くと、その考えがどこまでもオレを支配した。
彼女は何も言わずにただ、ジッとにらんでくる。 ……なんだよ。
「結局、イケメンのほうがいいって事かよ!」
気づけば、捨て台詞を吐いていた。
だったら最初から、期待なんて持たせないで欲しかった。
指輪まで用意したオレが、ホントにバカみたいじゃないか。
「……そう思いたいなら、どうぞ」
相手も、投げやりな口調で事を認めた。
そのまま顔を逸らされ、無言を貫く。
もう、口も利きたくないということだろう。
「……マジ、ふざけんなよ」
嫉妬や後悔、怒りに疑念。……もう、頭の中がめちゃくちゃだった。
そのせいか、疲労が一気にぶり返してくる。
それに、これ以上彼女と言い争いをしたくなかった。
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