プロポーズは1秒でも早く

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話の途中で、誰の事を言っているのかわかった。 そのせいか、こっそりと後を追う彼女の姿を想像して、少し可笑しくなる。 「な! 何が可笑しいの! ふざけんといてよ!」 「……ご、ごめん。 だけどそれ、11月の話だろ?」 怒った顔のまま、彼女が頷く。 「もしかして……それで12月に会ってくれなかったの?」 「え? そ、それは……その、あの」 指摘した途端、口でモゴモゴ慣れない標準語を喋り出した。 仕事が忙しいと言うのは、やっぱり嘘だったようだ。 「……奈央」 「だって! 本命の彼女に悪いやんか。クリスマスやのに……」 そんな勘違いで、オレはクリぼっちになったのか……。 ものすごく悲しかった。 本当は、ロマンチックなイヴの夜にプロポーズをするつもりだったのに……。 会えないと言われたので、仕方なく元旦決行になったのだ。 「なによ! 泣きたいのはこっちやわ!」 うな垂れているオレに、彼女がますます腹をたてた。 「それ、妹だから」 「はあ? …え、…い、妹? な、嘘やん! そんな下手な嘘、つかんといて!!」 「嘘じゃないよ。 こっちの大学を受験するから、下見に来てたの!」 「そ、そんな言い訳、バカにしてんの?! 兄が妹に婚約指輪なんて買うわけないやんか!」 ……やっぱり。 予想はしていたけど、そこまで見られていたか……。 こんなことになるなら、妹を送ってから受け取りに行けばよかった。 後悔は先に立たないもんだ。……仕方がない。 ジャケットの内ポケットから小箱を取り出す。 ふたを開けて彼女に見せた。 「……な、何よ、これ」 「婚約指輪……」 あの時、購入したものだ。 「妹に買ったんじゃないよ。奈央の為に買ったんだ」 「……うそだ」 微妙にまだ怒っている。 「リングの内側みて……」 彼女が疑わしげな様子で、内側の刻印を見た。 「SYUICHI to NAO ……ワタシの……名前」 そうだよ。だから……こんどこそ! 「奈央、オレと結婚してください!!」 ……やっと言えた。 これを言うのにどれだけ時間が掛かったことか。 見つめ合って数秒、慌てたように彼女が俯いた。 「……だ、ダメかな?」 彼女の返事を待つ。 こんな時、どうして時間はゆっくり流れるのだろう。 心臓が、今にも爆発してしまいそうなのに……。 顔を上げた彼女の口が、ゆっくり開いた。 ……YES? ……NO?
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