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青年が持っている一番古い記憶は――恐怖の只中にあった。
何が起こったのか分からない。
ただ、どうして、何で、とそればかりを頭の中で繰り返していた。
身体中が痛かった。
腕も、足も、何もかもが動かない。
そんな中、自分と対面していた人間がこちらに何かを向ける。
違う、俺じゃない、誰にも言わない。
そんな内容が口を突く。
その内、
やめて、やめろ、助けて。
そんな台詞に変わっていった。
それに、にやりと――何故かこの顔は鮮明に覚えている。幼い顔をした、あの男だ――笑う。
つるりとした頬をぐにゃりと皺を寄せ、それはそれは楽しそうに――愉しそうに。
そしてその瞬間、ガン、だったか、バン、だったのか。
強烈な破裂音を、途中まで聞いたところで記憶はブラックアウトする。
青年は、そんな記憶を持って――世界を生きていた。
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