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対面の少年のように隙がない訳ではないが、その姿はどこか気品が漂い、事実がどうあれ貴族の令嬢と言われて疑う者はいないだろう。
とはいえ、少女は華美な装飾をしている訳ではなく、唯一膝の上で重ねられた右手の人差し指にはめられた緑色の宝石が輝く指輪だけが妙な存在感を放っていた。
少年の名はカーラ。少女はアルセリア。
訳あって二人は共に旅をしていた。
「それにしても退屈ね」
憂いすら含んだアルセリアの呟きに今まで眠っているかのように黙り込んでいたカーラが顔を上げた。
「そのセリフ、もう何度目だ?流石に聞き飽きたぞ」
アルセリアの顔に浮かぶのが憂いなら、カーラのそれは呆れ。
この馬車に同乗させてもらってから数時間の間に幾度となく聞かされればカーラでなくともその感情は浮かんでくるだろうが。
もっとも、アルセリア程の美少女を前に平然としていられるならば、だが。
そう意味では決して広いとは言えない馬車の荷台で、膝が触れ合う程近くにそんな美少女がいて平然としていられるカーラはどういう意味でかはともかく特殊なのだろう。
それはアルセリアにも言える事ではあるが。
二人が共に旅を初めてから早一ヶ月。
決して仲が悪い訳ではない若い男女の二人旅だというのに、二人の間に甘い空気が流れた事は全くの皆無だった。
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