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その条件も元々はただで乗せてやると言った商人に、それでは悪いからと二人が自分から言い出した事だが。
そういう事情によって二人はこうして馬車に揺られているのだ。
「でも、退屈なのは変わらないもの」
確かに徒歩と比べて移動速度は遥かに速い。
だが、今までの旅のほとんど歩きで過ごしてきたアルセリアにとってこの退屈は予想外であった。
「知らん。そんなに退屈なら寝てれば良いだろ」
「こんなに揺れが激しいのに寝たら絶対どこかに頭を打つわ。貴方はどうやって退屈を紛らわせてるの?」
「休める時には休んで力を蓄える。いざって時に疲れて動けないんじゃ目も当てられないからな」
「真面目ね。でも、貴方にそれが必要とは思えないのだけれど」
この一ヶ月、二人は山を越え谷を越え、あちこち練り歩いたが、カーラが息を乱したところなど一度たりとも見た事がない。
アルセリアも体力は一般的に見れば多い方ではあるが、カーラのそれは桁が違う。
ほとんど無尽蔵の体力を持っているのだ。
「まあ、癖(くせ)みたいなものだからな」
「ふ~ん」
アルセリアは興味があるのか、ないのか曖昧な相槌を打った。
カーラもそれを特段気にした様子もなく、再び黙り込んだためその話は自然と打ち切られた。
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