幻影

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心臓が飛び出すかと思った。 恐る恐るスマホに手を伸ばす。 しかし、覗いた画面で見つけたのは、 私が待ち望んでいるアイコンではなかった。 メールの着信。 開く前に送信者を確認すると、少し気持ちが重くなった。 小坂充(こさかみつる) 1カ月半ほど前に会社の同僚の紹介で同僚の彼氏を含めて男女4人で食事をしたのだが、 彼の方が私のことを気に入ってくれたらしく、 度々連絡が来るようになった。 彼は初対面のときから人目も気にせず私を「可愛い」と言ってくれたが、私はどこか複雑だった。 小坂さんはいい人だし、 ビジュアル的にもなにも問題はない。 私に好意を持ってくれて、 私も彼氏がいない。 そのうち、二人だけで食事に出掛けるようになり、 いずれ、彼氏と彼女になるのかな……と、ぼんやりと思っていた矢先、 先週会った帰り際、車の中でキスをされた。 「ちゃんと付き合いたい」 即答できなかった。 だから、彼が返事は次でいいと言い、私はそのまま車を降りた。 その、“次”の誘いのメールだった。
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