幻影

9/21
前へ
/35ページ
次へ
食事の誘いは 『急でごめん』と前置きを添えて今日の夕食だった。 私の用事と言えば“実家でご飯を食べること”くらいだが、 気が進まない。 けれど、 『ずっと行きたかった店の予約が急に取れて』という、 彼のはしゃいだ様子の文面から、さらに断りにくい状況だった。 それに加えて、 今後のことを考えると、 彼が同僚の紹介、というのも、 私が何かと断りにくい要素でもあった。 同僚の顔を潰すわけにもいかないし、 4人で食事をした時は、 今後はダブルデートもありだとか、そんな話題も上がっていたのだ。 一人で考えていても答えが出ない。 私は仕方なく由奈に電話した。 ただし、この時はまだ親友にさえも桜井健吾のことは話さなかった。 「誰かに気を遣って鈴が誰かと付き合うなんて、あり得ないでしょ?」 由奈は私の迷いや不安を一掃するように断言した。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1105人が本棚に入れています
本棚に追加