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すぐに振り返らずに立ち止まったままの私に
その声がもう一度私を呼ぶ。
「……鈴ちゃん」
振り返るまでになんとか顔をつくろうとするのに、
結局上手く表情をつくれないままゆっくりと振り返った。
「……純也さん、どうしたんですか?」
私の視線の先には純也さんただ一人。
純也さんは私に近付き過ぎないように少し距離をあけて立ち止まった。
「鈴ちゃん、もう少し……時間いいかな?」
「私、電車が……」
「タクシーで送るよ」
「でも……」
「時間が欲しい。少しだけ、二人で話したいんだ」
純也さんの目は私に選択肢を与えなかった。
「じゃあ……どうしましょう? 私、もうお酒は飲めませんけど」
「コーヒーでも飲もうか」
「……わかりました」
私はにっこり笑って見せる。
純也さんが纏うただならぬ空気に自分がのみ込まれないように。
笑って、茶化して、気付かないふりをする。
そして、私たちは深夜までやっているコーヒーショップに入った。
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