乾杯

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私は立ち上がってクローゼットを開く。 まだ一度も着たことがないキャメルの新品のコートに手を掛け、 それを羽織って姿見の鏡の前に立つ。 コートの丈に合わせたスカートとグレーのタイツ。 普段は真冬にスカートなんて履いたりしないけど、 今ならあの言葉を理解できる。 『おしゃれのためには我慢も必要』 ……大丈夫。 今日の私は体温がいつもより高いかもしれないし。 最後に部屋を見渡してアパートを出た。 新品のブーツは少し硬く、靴音も硬い。 強張った靴音は私の鼓動と重なっていく。 緊張で少し苦しい。 立ち止まって深呼吸して空を見上げると、 白い息の向こうに今にも降ってきそうな無数の星が輝いていた。
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