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純也さんはコーヒーカップの取っ手を掴みながら、
それを口に運ぼうとはしなかった。
「鈴ちゃん、本当にきれいになっててびっくりしたよ」
ドキリとする言葉にも私は軽快な返事を意識する。
「女には化粧っていう武器がありますからね。みんな騙されちゃってる」
しかし、私のそんな演技も空振りに終わる。
純也さんは私の言葉を聞かなかったかのように話しを続けた。
「それだけキレイだと、やっぱり相手いるよね?」
隣にいるのが純也さんだとは信じられなかった。
あの頃の純也さんは口数が少なかったし、
こんなことを話すイメージさえなかった。
私を引き止める時のあの強引さも、
かつての彼には微塵もなかった。
私が変わったというのなら、
純也さんもまた、変わったのだ。
私は純也さんの言葉にすぐに返事が出来なかった。
私の無言の返答を純也さんは肯定ととったのか、否定ととったのかわからない。
もしかしたら、純也さんにとってはどちらでもよかったのかもしれない。
「バカだって思われるだろうけど、あれから俺、ずっと後悔してた。卒業間際、鈴ちゃんに呼び出された時は本当はすごくうれしかったんだ。……あの時、俺、本当は……鈴ちゃんが好きだったんだよ」
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