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 それなのに、さっきからひどく胸騒ぎがする。 (……なんだろう。この不安。)  目に見えない、漠然とした不安。  松田の言うように六年は短いようで長く、空白の六年間に様々なものが変わっていた。  高校時代、夜中まであんなに長電話を過ごしていた紗智ですら、昔のように語り合うことは憚られる。 「――亜希。」 「え?」 「どうした、ぼうっとして。」 「……あ、うん。ちょっと考え事してた。」 「……そうか。でも、考え事は食べてからな?」 「――うん。」  久保の手のひらが頭に触れる。  その優しさにほっと息を吐く。  しかし、亜希はハンバーグを切っただけで、口にはしない。 「……亜希。」  再びハッとすると、久保は焼きたてのパンの柔らかいところとスープを指差す。 「食欲が無くても、この二つは食べる事。良いね?」  心配そうな顔をしている久保に「ちゃんと食べるよ」と笑みを作る。  そして、その様子を見ていた久美子が「タカ……」と言いかけて、言葉を濁す。 「……何?」 「ううん、やっぱり何でもない。」 「――何だよ、気になるじゃん。」 「じゃあ、言うけど。甲斐甲斐しいって思っただけよ。」 「はい?」 「亜希さんのこと、『目に入れても痛くない』って顔してるから。」  そう指摘されると、久保は唇を噛み締め、顔を一気に歪める。 「貴俊さん、ごめん、私がなかなか食べないから……。」 「いや、違う。」  久保は厳しい顔のまま、亜希にかぶりを振る。  遅れて耳まで真っ赤に染まる。 「――ぷっ、あははは!」  松田が吹き出すように笑い出し、お腹を抱えて笑い出す。  久美子も肩を震わせて笑った。 「――お前らなあ。」 「折角、言い淀んであげたのに、促したのは、タカじゃない?」  面食らった亜希は、ふっと久保の言葉を思い出す。 『それにしても、顔が……』  その久保の台詞をなぞるように呟く。 「……にやけるのを堪えると……怒ってるように見えて……る……?」  亜希は表情を崩さずに呟くように口にする。 「亜希ちゃん、分かってるねえ!」 「……ってか、お前ら、笑い過ぎっ! 亜希も……。」  しかし、久保は亜希に文句を言い掛けて、途中で止めた。
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