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 ――ただ。  浜川は久保をじっと見つめた。  ――問題は「彼」だ。  本人は自覚していないかもしれないが、浜川の見立てでは久保の方こそカウンセリングが必要そうに思えた。  ――きっと、亜希同様、心の傷はかなり深い。  浜川は、久保がそのもの言いたげな視線に戸惑いを覚えた頃、彼に亜希の座っていた椅子に座るように促した。  久保が恐る恐る腰を下ろす。  そして、改まって亜希抜きで対峙する。 「――久保さん。あまり自分を責めないで。」  浜川の言葉はまるで胸の内を読まれたみたいな心地がしたから、久保は黙り込んだ。  ――じわりと視界が滲む。  浜川の言葉に胸が苦しくなる。 「――いいえ。俺がもう少し早く対処出来れば、亜希は傷つかなかったんです。」  それが適わない「もしも」だとはわかっていても。 「――どうして、そう思うの?」 「どうして……?」 「ええ。……何があなたを後悔させているのかしら。」  ――何が。 「……危険だと気付いていたんだ。」 「危険? それは『高津さん』の事かしら。」  浜川の口から高津の名前が出た事に少し驚く。  そして、亜希が話したのだと合点する。 「……ええ。」  久保の表情が暗くなる。 「その人の事は嫌い?」 「嫌いですね。」  ――即答。  浜川は少し思案した。 「……少し、高津さんの事を教えてくれる?」 「――アイツの事をですか?」 「ええ。進藤さんを介して彼の存在を知ったの?」 「いえ、アイツに会ったのは亜希と同時ですよ。」 「――同時?」  理事長の紹介で、挨拶をした事。  亜希を品定めするような眼差しで見た事。  そして、満足そうに一瞬ほくそ笑んだ事。  それらを余す事なく浜川に説明する。 「……だから、亜希には彼には近付くなと話していたんです。」  ――嫌な予感。  裏付けするものは何一つ無かったが、本能的に「危険」だと判じた。 「……でも、仕事で出張になって。今、思えば、それも高津の思惑だったんでしょうが……。」  あの日、亜希を一人にした事が悔やまれてならない。  久保はギリッと奥歯を噛み締めた。
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