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「……あなたにとって、高津さんはどんな人かしら?」
久保の眉間に皺が寄る。
目的達成の為なら、人を道具のように使う高津の様子に、父や母の姿が重なる。
――不要だと判断すれば、容赦なく切り捨てる。
「……相容れない奴ですよ。」
亜希を傷付けて、眉一つ動かさない男。
『……亜希は本望だ。好きな男の為に死ねるんだから。』
そう嘯いて憚らないような男。
思い出すだけで腸が煮え繰り返る。
そして、高津の事を根掘り葉掘り訊ねてくる浜川にも苛立ちを露わにした。
「……ところで、この質問って、何か亜希のカウンセリングに役に立つんですか?」
「――そうね。役立つわ。彼女は『高津さんは自分と同じだ』と言っていたから。」
「――同じ?」
「ええ。……何が『同じ』かは話さなかったけれど。そして、『淋しがっている』とも言っていたの。」
久保は浜川の言葉に、口を閉ざした。
「――彼女がどんな選択をしても、あなたは受け容れてあげられる?」
ごくりと生唾を飲み込む。
久保の喉仏が上下した。
「……どんな選択をしても?」
「ええ。『無償の愛』で包んで上げられるか、どうか。もし出来ないと思うのなら、これ以上は彼女のご家族に任せた方がいいわ。」
浜川が淡々と告げる。
「――彼女の選択は、必ずしもあなたにとっても良いものだとは限らない。」
久保は膝の上の手で握りこぶしを作る。
「……亜希が再び別れを選ぶ事も考えて置けって事ですか?」
「――ええ、そうよ。今のままなら、ね。」
含みのある浜川の言葉に久保は目を見開いた。
「今のまま、なら……?」
「――彼女の傷は、思っていたのより、ずっと深い。」
救いの糸である蜘蛛の糸が切れた亜希は二度も生き地獄を見てしまった。
――それでも。
『要らないなら、いっそ殺して欲しかった……。』
ぽろぽろと泣き始めた亜希は、掻き消えてしまいそうに見えた。
『……私ね、高津さんと生きる事を選んだの。』
――恋い慕う気持ちとは別物。
それも彼女はよくわかっている。
――畏れと敬愛。
それは神仏を崇めるのに近い。
「今の進藤さんにとって、あなたには認めがたいとは思うけれど、『高津さん』はもはや彼女の一部だわ。」
分離することなど出来ない。
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